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夜尿症の心理的影響
心理的ストレス
ガイドラインはその1番目に、「夜尿は成長とともに治ることが多いが、本人や親が悩んでいるときは積極的に治療すること」を勧めています。それは自尊心低下を防ぐためです。
図はオランダの報告ですが、精神的障害の程度はいじめよりも強いようです。
心理的防衛反応
夜尿症の子どもはストレスにより劣等感を持ちます。しかし「なかったことにしよう」とする心理的防衛反応で、親が注意しても「平気な顔」を取り繕うことがあります。
親は育て方が間違っていたと自責の念に囚われがちで、「平気な顔」の子どもを見ると「反省していない」と誤解しがちです。
こうしたお互いの感情は負の連鎖を引き起こし、お互いが些細なことで怒りっぽくなります。
心理的サポート
やる気を維持するために、夜尿回数が月に1回でも減ったら大げさにほめるなどの、低い目標設定と心理的サポートが大切です。 治療には夕食後の水分制限が必要です。小学校高学年になると塾や部活でそれが難しくなりますので、低学年のうちに治療を始めることをお勧めします。
参考
夜尿症診療ガイドライン2016
夜尿症診療における心理面からのアプローチ 田村節子 小児科臨床 2016;69:1263
治療法の違いによる治療期間の検討
アラーム療法とデスモプレシンの比較
夜尿症治療期間の報告は少ないです。その理由は、自然治癒が多いことと、一人ひとりの病像が異なるので、比較が難しいからです。
白柳慶之先生の文献を紹介します。
結果は、以下のようです。
- どちらの治療法も治療期間に有意差はなかったが、アラーム療法は短い治療期間で治る傾向にあった。
- デスモプレシンは短期間で中断した例が多かった。
表1
アラーム療法 | デスモプレシン | |
---|---|---|
例数(人) | 25 | 110 |
治癒(人) | 11(44%) | 48(44%) |
継続中(人) | 5(20%) | 30(27%) |
中断(人) | 9(36%) | 32(29%) |
表2
アラーム療法 | デスモプレシン | |
---|---|---|
平均年齢 | 7.7 | 8.9 |
治癒例の平均週数 | 29 | 40 |
継続例の平均週数 | 72 | 72 |
中断例の平均週数 | 36 | 13 |
どちらの治療法も試してみる
デスモプレシンは夜間多尿の子には作用が期待されます。
内服なので、初めに試すことが多いのですが、改善する前に止めてしまうことが多いようです。
アラーム療法は、ぼうこう型も含めて、すべての夜尿症に勧められています。
デスモプレシンで改善しないときは、次の手段としてアラーム療法を試すことが大切です。
アラーム機器のレンタル
アラーム機器は健康保険が使えませんので、敷居が高いのが現状です。
当院は保証金をお預かりして貸し出ししています。返却時に全額お返しすることで、取り組みやすくしています。
アラーム療法を試したことのない子はご相談ください。
治療を始める時期
小学校高学年になると塾やクラブ活動で夕食後の水分制限が難しくなります。親の言うことも聞かなくなるし、劣等感も増します。
宿泊行事が多くなる前の低学年のうちに、治療を始めることをお勧めします。
(参考)白柳慶之「夜尿症に対する初期治療の違いによる治療期間の検討(題は要約しています)」(夜尿症研究 2018;23:39)
夜尿症のタイプ
夜尿症は3つのタイプ 多尿型、ぼうこう型、混合型に分類されます。
治療のためにはどのタイプなのかを決める必要があります。
そのために以下の検査をします。
- 早朝尿を3日間持ってきてもらいます。比重と浸透圧を測るためです。
- 夜尿量と早朝尿の量を測ります。
- 1回ごとのおしっこの量を24時間量ります。
- おしっこをしたくなった時に目いっぱい我慢したときの尿量を測ります。
- 夜尿の時間帯を大まかに調べます。
それらの結果を参考にして、その子に合った治療法を考えます。
ご心配な方はご相談ください。
夜尿症の治療
治療を始める目安
小学1年生で、週に半分以上おねしょ(夜尿症)があるときは治療を始めたほうが良いです。
高学年まで続く可能性が高くなります。
高学年になると、自尊心が低くなる心配と、宿泊行事参加への不安があります。
アラーム療法と薬(デスモプレシン)があります
夜中にたくさん尿ができてしまう夜間多尿型にはデスモプレシン療法が勧められます。
膀胱容量が少ないタイプと、膀胱が一杯になっても目が覚めないタイプにはアラーム療法がお勧めです。
アラーム療法の治療成績
アラーム療法は約2/3の患者さんに改善が期待できます。
寝ている間に尿が漏れてしまったことをアラーム音で気付かせてトイレに行かせます。
効いてくると夜間膀胱容量が1.5倍に増えます。膀胱が充満したことで目が覚めるようになります。
医学的副作用はありません。
欠点として、治療作用を実感するまでに1~2か月ほどかかります。
夜尿に伴うアラーム音で保護者が起きて処置しなければならない手間があります。
機器に保険がきかないので買わなければなりません。
当院はアラーム製品の見本を用意して、一定期間貸し出しています。
そのように取り組みやすくしていますので、一度試してみたい方はご相談ください。
(参考)「夜尿症診療ガイドライン2016」(日本夜尿症学会)
当院の成績
過去3年間にアラーム療法をした子は9名居ました。
継続中の2名を除いて、7名が終了し、2名が治癒、5名は治癒に至らず中止しました。
治癒した子は2名でした。
開始から治癒までの期間は、6か月間と15か月間でした。
中止した子は5名でした。
そのうち3名は2か月以内に中断しました。夜のアラーム音にびっくりで続けられませんでした。
残り2名のうち一人は6か月間、もう一人は12か月間頑張りましたが治りませんでした。
(2024年7月末時点)
夜尿症の経過
何人くらいがおねしょするの?
小学校に入学するころには15%、つまり7人に一人くらいです。
日本の頻度
年齢 | 小学校低学年 | 小学校高学年 | 中学生 |
---|---|---|---|
頻度 | 10%台 | 5%前後 | 1~3% |
欧米の頻度
いつごろ改善するの?
自然治癒のピークは女児が10~11歳、男児が12~14歳です。男児が女児より遅いです。
つまりその歳を過ぎてもおねしょをしていれば、改善する可能性は徐々に少なくなります。
改善する子と、改善しない子の違いは?
改善しにくい子 | 改善しやすい子 | |
---|---|---|
夜尿回数 | 毎晩おねしょをする | 週に数回 |
夜尿の時間帯 | 寝入りばなにする | 明け方にする |
昼間のお漏らし | 有り | 無し |
治療を受けると早く改善するの?
治療をしなくても1年後の治癒率は10%~15%、つまり夜尿症10人のうち1人~2人は自然に改善します。一方、治療を受けると治癒率は2~3倍高くなります。すなわちおねしょがなくなるまでの期間が2年以上短くなります。ただし夜尿症のタイプによって治療作用は異なります。
おねしょが改善するには日にちがかかります
治療作用の目安は、夜間の尿量、ぼうこう容量、時間帯です。それらの改善を確かめながら、夕食後の水分制限を励まして、おねしょをしない日が増えたらほめて自信をつけることが大切です。
(参考)日本夜尿症学会編 夜尿症診療ガイドライン2016